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最高裁判所第一小法廷 昭和29年(あ)1870号 決定

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人鈴木勇の上告趣意第一点について。

所論は、判例違反をいう点もあるが、判例を具体的に示していないから、その点は適法な上告理由と認められないし、また、違憲をいうが、その実質は、単なる法令違反の主張を出でないものであって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、原判決は、第一審判決を量刑過重として破棄した上、刑訴四〇〇条但書により第一審の確定した事実に判示法令を適用し、その判示第一事実の一、二及び第二事実の一、二をそれぞれ刑法六〇条、関税法七六条一項に該当するものとし、結局被告人を懲役五月等に処したほか判示第一の二につき罰金一万円に処したものである。しかるに、右判示第一の二の事実は、被告人が他数名と共謀の上、昭和二五年八月下旬頃沖縄具志川島において取得した真鍮屑約三二屯(原価約二〇八万円)の内二〇屯を明進丸に、一二屯を博洋丸に積載し、明進丸は同年九月二日頃広島市宇品海岸に陸揚すべく同所附近まで帰航したが海上保安官に発見されたためその貨物輸入の目的を遂げず、博洋丸は同月一日広島県安芸郡府中町東洋工業株式会社裏手海岸に帰着し同所に右貨物を陸揚してこれが密輸入を遂げたというのである。従って、第一審判決の確定した判示第一の二の事実は、その日時、場所その他から見て明進丸による密輸入未遂事実と博洋丸による密輸入既遂事実との二個の犯罪事実であって、両船による包括的な一個の密輸入既遂の犯罪事実でないこと明白である。されば、原判決が、右事実を前記のごとく単に一個の既遂の法条のみに該当するものとし、未遂の事実につき法条を適用しないで処断したのは、法令に違反した違法があるものといわなければならない。しかし、右の違法を是正するとすれば、原判決の適用している関税法八二条の四の規定により右未遂の事実につきさらに被告人に刑を追加すべきものであるから、被告人に不利益な結果を来すものというべく、従って、所論法令違反の主張は、結局被告人に取り不利益な主張に帰し、採るを得ない。

同第二点並びに被告人本人の上告趣意について。

同第二点は、違憲をいうが、その実質は、原判決の判示した量刑事由の一部の誤認並びに量刑不当の主張を出でないものであり、また、被告人本人の上告趣意は、事実誤認、量刑不当の主張であって、いずれも、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また、記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同四一四条、三八六条一項三号、一八一条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

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